すきによんでねブログ

たかはしりおこのなんてことないブログ

2019年9月自選3首

「東京駅 かみなりおこし」と打ち込めば指がとらえる「りおこ」の動き(Twitter/1日)

満水で止まる除湿機ぼくたちもあふれてしまう前に休みたい(うたの日/自由詠/11日)

引き出しの奥から出てきた恋の火をそっとなぞってすぐに揉み消す(Twitter/22日)

 

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9月は80首でした。笹井宏之短歌賞と歌壇賞に、どちらもはじめて出しました。

そういえば8月の自選をしていないのですが、自選するほど詠んでいなかったような気がするので、このまましないと思います。今月は大会応募作以外もわりと好きな歌が詠めた気がしています。

ゲルニカ

図工室は普段使うことのない教室だった。図工の授業は教室でやるし、なんらかのイベントのときに使うくらいの教室だった。昼休みもそこには誰もいなくて、ただ、確か体育館の隣にあったように記憶していて、だから遊ぶ合間にそっと忍び込んで、かといって何をするでもなく、秘密のおしゃべりなんかをするくらいだったと思う。

絵が飾ってあった。埃をかぶって、色褪せていた。わたしは当時それをモノクロコピーだと思っていた。作品名は知らなかったが、誰の絵かは知っていた。ピカソ。こんなへんてこな絵を描くのはピカソだと、小学生でもわかる絵だ。

わたしがその絵をきちんと知ったのは高校生のときだった。演劇部で『ゲルニカ』という作品をやった。高校演劇の作品集に収録されていて、演劇部員では知っているひとも多いだろう。スペインの戦争の物語。

わたしは「ゲルニカ」を知らなかった。それは地名としてもだし、ピカソの作品としても、だ。だから検索をかけた。そしてピカソの「ゲルニカ」を知った。小学生のとき図工室で見ていた、あのピカソの絵。その絵はモノクロコピーではなく、元から色が抑えられて描かれていたのだった。そして、これは戦争の絵なのだと、はじめて知った。

結婚についてのつぶやき

夫の親戚が10年を超えるカップルだけどお互い仕事をしていて遠距離で~って感じで結婚していなかったの、そういう関係もありだし、安易に結婚を選んだわたしにとってはバリバリ働くのかっこいいし素敵だなと思う対象だったし、そのままでもいいんじゃないかなと思っていたけど、それでも結婚が決まったと報告を受けたときは嬉しかった。何かを諦めて我慢して選んだ道かもしれないし、もやもやを抱えているかもしれないし、もしそうだったとしてその気持ちもものすごくよくわかる、でも嬉しかった。

他の人のときもだけど、結婚報告って本人の葛藤は(葛藤の有無も含め)まるっと放り投げてそっちのけで喜んでしまうよね。正直わたしはおめでとうって言われるたびにもやもやした。わたしにとって結婚はあんまりめでたいことではなかったから。でもそれって、だからこそ、結婚なんて幸せばかりじゃないけどよく決断したね、頑張ったね、っていう気持ちなのかもしれないな、とりあえずわたしからのおめでとうってそんな気持ちなんだろうな、って、思った。人の結婚報告に嬉しくなってしまうたびに、わたしの結婚を喜んでくれた人たちはこういう気持ちだったのかなって、納得できるようになってきた。

 

夫の親戚から報告を受けたあと部屋で小躍りをしていたら「親族で一番喜んでるのあなただと思う」って夫に笑われた。

『ぬるくゆるやかに流れる黒い川』(櫛木理宇/双葉社)

 

ぬるくゆるやかに流れる黒い川

ぬるくゆるやかに流れる黒い川

 

まず、6月に出版されたばかりだというのに置いてあった図書館に感謝したい……。とても面白かった。ああ~、語彙力がない。

前々回のブログで櫛木理宇作品をいくつか読んだという話をして、さらにいくつか読んだ、これで六冊目かな。うーん、うまく説明はできないのだけれど、わたしの関心事と櫛木理宇さんの書く物語のキーとなる事柄が、いつもわりと重なっているように思う。家族の話とか。で、この作品は、殺人の被害者遺族が、動機などが明らかになる前に自殺してしまったその殺人鬼の動機を調べていく物語だった。今回キーになることのひとつとして、とってもざっくり言うとミソジニーの理論があった。まあそのミソジニーそのものの理由についてまで解き明かしていくわけなんだけど……。ミソジニーについては関心があるし、その他にも過去にあった殺人事件のいくつかが引き合いに出されていて、それらがわたしも気になっている事件だったりして、だからわたしはすんなり読めたし、いろいろ考えてしまったし、この本を読めて良かったと思った。

殺人事件が起こるたび、正直わたしも他人事じゃない、と思う。それはもちろん被害者になり得るということでもあるけど、恐ろしいことに「加害者とわたしの考えに大差はないんじゃないか」と思うことだってある。理性の枠からほんの少し足を踏み外したら、わたしだって憎しみや苛立ちを抑えることができなくなるのではないか、と。その気持ちが常にあるからこそこの物語に触れることができて良かった。

正直、この物語に出てくる事柄に関心がない人が読んだらミステリーのようなトリックもないし説明くさいと感じて面白くないかもしれない。ちょっと歴史っぽい話も出てくるし。でもわたしは好きでした。櫛木作品、わたしは好きです。

櫛木理宇をいくつか

友人に櫛木理宇の『少女葬』を薦められた。図書館に行ったがなかったので、他の櫛木作品を借りた。(『少女葬』はそのうち買おうと思っている)

まず『赤と白』(集英社)を借りた。次々と読み進め、夜更かしをしそうになった(先日伊坂幸太郎の『重力ピエロ』で夜更かしをしたばかりである)。感想としては、読めて良かったと思った。女子高生たちの物語で、大切な事柄、大事な感情がいっぱい詰まっていて、本当に好きな友達だから知られたくない・見せたくない自分がいて、だから壊れていった日々の話だった。わたしは彼女たちのように家庭の事情が複雑ということもなかったけれど、それでもその苦しさや悲しさは少なからず身に覚えのあるものだった。

そして、他の作品も読みたいと思い、借りた。借りるとき、本を手にしてこんなにワクワクしたのははじめてなんじゃないかと思うほどウキウキした。『209号室には知らない子供がいる』(角川書店)と『寄居虫女(ヤドカリオンナ)』(角川書店)を読んだ。でも『赤と白』が一番面白かったかな。209号室~はホラー、ヤドカリオンナはサスペンスかなと思う。赤と白はサスペンス……なのかなあ、ちょっと気味の悪い群像劇というか……。読後の感じとしてはそれこそ『重力ピエロ』に近いというか……いやもっと狂っちゃってるんだけど……あと宮部みゆきの『ネバーランド』とか……いやもっと狂っちゃってるんだけど……。(だいたいネバーランドはもう10年以上前に読んだので比較対象として適正でないかもしれない)

三作品を読んで、この作者は家族の確執をよく書くのかなあと感じた。芯にある気持ちが似ている感じ。でもどれも女主人公だったし、他のも読まないと。もう一冊借りているのはおそらく男主人公だったと思う。

ホラーやサスペンス、薄気味悪かったり「胸糞」って言われる感じの作品が好きだなあというひとにはぜひ読んでみてほしい。どれもこれも登場人物や家庭が狂って壊れていく話です……。ちなみにわたしは普段そういう本は全然読みません(友達のお薦めって偉大だな……こんなにはまるなんて……)

2019年7月自選3首

きみはいつも木から降りられなくなった猫を呼ぶみたいにぼくを呼ぶ(うたの日/自由詠/10日)

(自分にはいらないからと一行でないものとされる空気抵抗)(Twitter/26日)

コンビニで手軽に買ったビールにも等しく夏はやってくること(Twitter/連作「夏の土曜日」/27日)

 

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7月は33首でした。しかしほとんどがどこかへの投稿で、ネットにあげたものは8首しかなく、選びようがありませんでした……。

『津田梅子』(大庭みな子/朝日文庫)

 

津田梅子 (朝日文庫)

津田梅子 (朝日文庫)

 

『津田梅子』(大庭みな子/朝日文庫)を底本とした埼玉福祉会の大活字本を読んだ。最近、大活字本は読みやすいな~と思う(こんな20代はイヤだ)

この本を読んで、わたしは津田梅子のことを何一つ知らなかった、と思った。社会科で習った、幼い頃国の政策により米国へ留学をしたこと、そして津田塾大学の創業者であるというその文字通りのことしか知らなかった。日本にきてからも日本語がおぼつかなかったこと、生涯結婚をしなかったこと、せいぜいそのくらいしか知らなかった。さらに、梅子と共にアメリカへ渡った他の子女たちのことはまったく知らなかったと気が付いた。

この本には、梅子がアメリカから日本へ戻ってきてから、アメリカでのホストマザーであったアデリン・ランマンへ宛てた手紙の内容を中心に、梅子がどのように考え、女子のための学校を作っていったかが書かれている。ただし今、わかりやすいだろうとホストマザーという言葉を使ったが、実際には7歳から18歳までの梅子の育てた、梅子のアメリカでの親であると言ったほうがいいだろう。

梅子は帰国後、私塾創設の目標を持ち、教育について専門的に学ぶために再度アメリカへ留学している。そこで彼女は生物学でも大きな研究成果を残している。アメリカでその研究を続ける道もあった。それでも彼女は、日本の未来のため、日本の女性の未来のために生きていた。その目標から目を逸らすことはなかった。

 

津田塾大学は今も梅子の精神の多くを受け継いで存在しているように思う。彼女の作った私塾は結婚している女性も区別なく受け入れたが、今の津田塾大学には保育所がある。教職員はもちろん、学生も利用することができる。女性の働きやすさ、生きやすさについてよく妊娠・出産が問題とされるが、学校に保育所があれば学ぶことを諦める必要は少なくなると思う。職場に保育所があればもっと生きやすくなる人は山のようにいると思う。わたしはこれに限らず女性の生きやすさについてよく考えるが、自分をフェミニストだとは思っていなくて、男女が共生する上で当たり前の考えだと思っている。

 

梅子が私塾を創立してから100年以上経つ。彼女が変えたいと思っていた日本は変わっただろうか。当時のように見合いをさせられることは減ったし、結婚しない女性も増えた。けれど変わったこともあるが、まだ根本的に変わっていない、変えなければならないと感じる部分もたくさんあるように思う。

この本を読むことができて本当に良かった。

無事に正しい向きで梅子が紙幣になることを楽しみにしている。