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『みずつき8』を読むそのに

瀧口美和さんの「水音」。どの歌も……!好き……!!!!!

一首目、なくなくなくと続いて「泣く」に着地する感じがすとんと心に響いて、ただ泣いている事実だけが残る感じ……。うーん、上手く言葉にできない。意味としてはなんで泣いているのかとかはわからなくて(水に色がなくて味がなくて音がなくて泣いているなんてことはないと思う……)最後まで読んでからもう一度読むと、湧き出ているのは涙なのかなとは思うんだけど。味がないかというとしょっぱい(とよく表現される)けど、音もなく泣いているっていうのも実際100%無音だなんてことはあり得ないし、ほんと泣いているっていうだけ、それだけの状況、事実が際立つ感じがする。

二首目、サントリーによると( https://mobile.suntory.co.jp/eco/teigen/jiten/science/09/?transfer=pc_to_mobile )体の80パーセントが水っていうのは胎児~新生児の間くらいらしいけど、死産とかだとは特に思わなかったんだよなあ。とりあえず、成人にしてはだいぶ水分多目だけど、個人差(の範囲内とも思えないけど)として、「きみ」の個性、と思って読みました。そんな個性を持つ人だから一緒にいたかった。個性って一緒にいたかった理由としては強いですし。で、一首目ではなんで泣いているのかわからなかったけど、ここで「一緒にいたかった」ってなっていることから一緒にいられなくなった、お別れをした、ってことがわかります。

三首目、ここではっきり「別れ」っていう言葉が出てくるわけだけど、この歌かなり好きですね……。別れ話の沈黙に雨の音だけが響いているのを感じる。出会ったときも雨だったなっていうのを思い出している、と読みました。出会いに思いを馳せながら別れていく。でも例えばこれを死産読みに戻したらまた変わってきますよね。病院での沈黙。妊娠が発覚した日も雨だった。でもやっぱりそう考えると「懐かしむ」っていうのはちょっと優しすぎる感じがするから、違うと思う……。

四首目。これ全部の句が「うた」で始まっていて、言葉遊びが面白いなと思った。最初気が付かなくて、なんでこんなにリズムがいいんだろう?って考えてしまった笑。この歌だけ一連の中で少しのほほんとした雰囲気。

五首目。踝が濡れるっていうのはどういう状況かなあと思って、しかもそれは「きみ」によって、という感じなので難しかったけど、これまでの感じから踝が濡れるくらい泣いている、そんな失恋、それくらい「きみ」のことが好きだった感じ、と読みました。「僕の涙」読み。……それかちょっとせくしゅあるな歌なのか……?とちょっと頭をよぎったので一応書いておきます。

六首目、この歌も好き。溺れてたっていうのは比喩だと考えていて、落ち込んでいたり、生きづらかったりとかかもしれないけど、とにかく主体のことを「きみ」は救ってくれた。そんな人だったからこそ大恋愛というか、本当に好きだったんだろうなって今までの歌とも繋がる。でもここでまた死産読みに戻すんだけど、確かに胎児って羊水の中にいて、それを泳いでいると捉えればこの歌と重なるところがあって。でもこの歌の下の句って、自分を振った相手に対しての恨みっていうかちょっと見返してやりたいみたいな気持ちを感じるから、やっぱり死産というわけではないんだと思うんだよな……。

ということでカップルの別れの歌として読んでとても好きでした。「きみ」について、比喩みたいな、抽象的な表現しかされていないところがいいなと思っていて、読んでいるこっちとしてはどんな人か全然わからない。どんな日々を過ごしたカップルなのかも全然わからない。でも主体が相手のことを本当に好きだったことがわかる。あと、「きみ」がどんな人か気になって、読んでいるこっちもなんとなく惹かれる。そんな連作だと思いました。